スレイくん刻遺の語り部ルートの話

※新米導師くん視点のお話です。




−君に会わせたい人がいるんだ。

水の天族である僕の主神がそう提案してきてから早三日。それきり何も語らなくなった主神に連れられて、僕は今、ローグリンの中心に佇む古びた塔を登っている。
チラリと横に目を向ければ、ずいぶん長く階段を登り続けたおかげか、ローグリンの街の全貌を見渡す事ができた。−この街はどこか懐かしい感じがする。昨今の技術の急発展の例に漏れず、グリンウッド大陸の端に位置するこの街もずいぶん近代化が進んでいた。にもかかわらず、この地で暮らす人々は数百年前から変わらず導師信仰を守り、古くから残る導師所以のこの塔を中心に慎ましい生活を続けている。

「ねぇミクリオ、僕に会わせたい人ってどんな人なの?」

地上の景色を眺めるのに飽きた僕は、三日前から散々繰り返している質問を目の前の主神に投げかける。

「その人が今の災厄の時代を終わらせる方法を知ってるんだよね?」
「災厄の時代を終わらせる為の答えは、君自身が見つけるものだよ」

階段を登り終え、巨大な扉の前で僕を振り返った主神は、いつも通り優しく諭すような口調で僕に言葉を投げかける。また子ども扱いをさせてしまったと内心反省しつつ、大丈夫、分かってるよ。と表情を引き締め直して答えると、僕の主神は満足そうに頷いて目の前の重い扉に手をかけた。


***


扉の先は、想像していたよりもずっと広い空間が広がっていた。一面の花畑の中心に佇む巨大な石碑と、石碑を見上げる一人の青年の姿が目に入る。

「……メーヴィン?」

思わず漏れた呟きが、静寂の中を木霊する。塔内部への侵入者に気付いて振り向いた青年は、僕がよく知っている人物だった。

「久しぶりだね、導師さま。……あとミクリオも、久しぶり」

柔らかそうな茶色の髪に、暖かみを感じる若草色の瞳を携えたこの青年は、僕と同年代と思われる風貌にも関わらず、深い知識と良識で僕たちの旅の先々で頼もしい助言を与えてくれる存在だった。でも、それはあくまで一般的な一人の人間として出来る範囲の助けではあったのだが−…。

「メーヴィン、天族が見えるの?!」

困ったように眉を下げた青年は、僕の隣に立つ人物に助けを求めるように視線を投げる。つられて僕も隣に視線を向ければ、そこには今まで見たこともないくらい子供っぽい顔でクスクスと笑う主神がいた。

「もう大体の用件は分かってると思うけど……この子に全てを見せてあげて。
 全部片付いたら、僕も君の元に行くからさ」
「……まぁ、お前の頼みなら断れないよなぁ」

今まで散々迷惑かけたし。と小声で付け足された言葉に二人は一瞬だけクスリと笑いあい、一呼吸おいて僕に向き直る。

「改めて紹介するよ。
 彼が今代の刻遺の語り部であり、前回の災厄の時代を救った導師スレイだ」
「もう導師としての力はないけどね。改めてよろしく、若き導師さま」

差し出された手を思わず握り返して、青年−導師スレイの顔を覗き込むと、僕のよく知っている菫色と同じ暖かさの瞳がそこにあった。−あぁ、なんで今まで気付かなかったんだろう。大好きな二人の共通点に気付いた僕は、嬉しいような……でも少し寂しいような気持ちを飲み込んで、導師としての務めを全うするために、もう一度強く目の前の手を握り返した。



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<反省会>

ごくごく自然に心中宣言するイズチが見たいなーと思ってネタ出ししてたらいつの間にか新米導師くん視点の小話になってて自分でもびっくりしました。